時計は、さまざまな事柄と“ツナガル”ための装置だとオーシャンズは考える。そんな目線で時計を眺めると、日常に広がりと豊かさが生まれてくるだろう。
12の“ツナガル”物語。前編に続き、後半も堪能あれ。
心地良い緊張感が背すじを伸ばす
「ジャガー・ルクルト」のレベルソと「ブレゲ」のタイプXX アエロナバル
レベルソはラテン語で「回転する」を意味し、アエロナバルは「海軍航空隊」を指す。前者はエレガンスを、後者はタフネスを、大人の男には欠かせない魅力的な要素を持ち合わせている。
ホテルマネジメント 経営企画室
掛井智也さん Age 38 が語る ツナガリ
身に着けたモノに引っ張られるように、自然と背すじが伸びる。特に腕時計の持っている引力は、ほかのアイテムとは一線を画すものがある。「仕事柄スーツを着る機会が多く、ジャガー・ルクルトのレベルソは気持ちの入った商談やプレゼンなど、“勝負のとき”は必ず着けています」。
普遍性、格式、出自、品質、そのすべてに納得。精いっぱい背伸びをして、28歳で購入した当時の記憶が蘇る。身に着けるたびに緊張した。だが、この歳になって少しずつ馴染んできた。「ブレゲのタイプXX アエロナバルは、僕の先輩の影響です。若くして会社を立ち上げ、夢を形にしていくパワフルな姿に思わず憧れて」。
パイロットウォッチとして、大空への憧れをその身に宿す名作時計。それは自らの夢に向かって挑戦する掛井さんを鼓舞する頼もしい存在だ。かつて背伸びをして手に入れた時計と、これからは歩幅を合わせて歩んでいく。スッと背すじを伸ばして、心地良い緊張感を楽しみながら。
忘れがたき父の背中を追憶しながら
「IWC」の ポートフィノ
シンプルな文字盤やリーフ針を携えた、クラシカルな面持ちが見る人を魅了する。今年、ブランドが創立150周年を迎えた際に展開されたジュビリーコレクションも記憶に新しい。
ビームス プラス 原宿 スタッフ
岩折純平さん Age 39 が語る ツナガリ
時を刻み続ける恒久性から、機械式時計は親から子へ受け継がれる。岩折さんが愛用するIWCの「ポートフィノ」は、父の形見。アパレル関係の仕事に就いていた父親は、岩折さんがファッション業界へと進むにあたる道標だった。
「いわゆるアイビー世代で、家にはアメリカ製のものを中心にたくさんの服がありました。希少なミリタリーアウターを着ていたこともあったり。そんな父を見て、素直に格好いいなと思っていました」。洒脱な父親が遺した特別な時計。だが意外にも、「これを着けることで、特に身が引き締まるとか、感傷に浸るということはない」と語る。
「ただ、尊敬しているのは確かです。何十年経っても、父が遺していったモノには惹かれるものが多いから。クラシカルで美しいこの時計も同様で、だからこそ大事に使っていますし、身に着けると自然と普段の行動が丁寧になりますね」。忘れがたき想いをのせて、きっとまたこの時計は次の世代へと受け継がれていくのだろう。
初心を呼び覚ます永遠の相棒
「ロレックス」のエアキング
1940年代後半に誕生したロレックスの代表作で、シンプルな佇まいに航空の世界における伝統を宿す。ローマンインデックスを採用した酒井さんの愛機にはダイヤがちりばめられている。
弁護士
酒井英司さん Age 38 が語る ツナガリ
弁護士の酒井さんにとって、依頼主に与える印象は仕事の結果を左右する。実直、誠実、そして多少の若々しさ。シンプルな佇まいに空への憧憬を孕むロレックスのエアキングを、社会人として初めての時計に選んだのは必然だった。
「派手さはないですが、オーセンティックな高級感がある。それでいて重厚感もあって。プロダクトとしての完成度が高く気に入っています」。酒井さん曰く「実は相当ハードな職種」だという弁護士は、徹夜で書類作成に追われたり、休日出勤もしばしば。今でもふとこの時計を覗き込むと、かつての同僚の顔が浮かぶのだという。
「戦友を思い出すのと同時に、駆け出しだった頃の記憶が甦り、身が引き締まります。僕が弁護士として過ごした時間を共有する時計。もちろん、これからも良き相棒でいてほしいです」。淀みのない笑顔で語られた、相棒に対する信頼と愛着。真っすぐな視線を腕元に落としたあと、その背中はビル群へと吸い込まれた。
酒井英司さん
PROFILE●1980年神奈川県生まれ。中央大学を卒業後、2007年に司法試験に合格。以後、企業法務を専門とする弁護士に。日々激務に追われながらも、2児の父として家事育児にも積極的だ。
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鮮やかに蘇るシカゴの情景
「ロレックス」のコスモグラフ デイトナ
プロのカーレーサーのニーズに応えるために、1963年に誕生。クロノグラフやベゼルのタキメーターが疾走感を湛えている。澤田さんが所有するのは、高級感たっぷりのプラチナ製だ。
サワダコーヒー オーナーバリスタ
澤田洋史さん Age 49 が語る ツナガリ
ラテアート界にその名を轟かせる澤田さんは、無類の時計好きとしても知られている。そんな彼が数多のコレクションのなかでひと際愛着を持つのがロレックスのコスモグラフ デイトナだ。
「2015年に、念願だったアメリカ・シカゴでの出店が決まった際に思い切って購入しました」。ずっしりとしたプラチナの重みもさることながら、勇気を持って未踏の地に単身で飛び込んだ澤田さんを、より深い感慨に誘うのは時計のダイヤルに採用された独特なカラーリングである。
「当時の記憶、シカゴの街の中心を流れる川が真冬に凍る光景が、この鮮やかなアイスブルーに重なるんです。そして何より、ベゼルとインダイヤルの目盛りがコーヒーのようなチェスナット ブラウン。これには運命的なものを感じましたね」。腕元を見るたび、かの地の情景が浮かぶ。そして絶え間なく動き続ける時計は、時間を超え、距離を超え、男を突き動かしてきた情熱やパイオニア精神をいつも伝えてくれるのだ。
澤田洋史さん
PROFILE●1969年大阪府生まれ。シアトルへの留学中にラテアートと邂逅。2008年、ラテアート世界大会でアジア人初のチャンピオンに輝き、’15年に自身のショップ「サワダコーヒー」を米国に設立。
結ばれた証しとして、いつも腕元に
「タグ・ホイヤー」のタグ・ホイヤー カレラ キャリバー1887 クロノグラフ
伝説の公道レースをイメージソースとする、タグ・ホイヤーの基幹コレクションのひとつ。クロノグラフ特有のインダイヤルやベゼルのタキメーター表示が、モータースポーツの世界観を伝える。
フリークス ストア 営業
斉藤篤史さん Age 38 が語る ツナガリ
32歳で結婚を決めた。妻となる女性からは、「婚約指輪はいらないよ」と告げられた。「その代わり、一緒に旅行へ行こうと言われて。でも実は、内緒で指輪を用意していたんです。青山で見つけたお店に入って、自分の希望するデザインを依頼して一から作ってもらいました」。
ところがある日の夜中、些細なことで口論に。喧嘩を収めるために方法はひとつしかなかった。「結局、その流れで指輪を渡しました。すると彼女も、この時計を僕に手渡したてきたんです」。互いが互いを想う。思いがけないサプライズは、結果的に記憶に残るプロポーズとなった。
「欲しかった時計でした。雑誌をスクラップしていたくらい。彼女もそれに気付いていたみたいで。モノトーンスタイルが好きな僕のために、黒文字盤のタグ・ホイヤー カレラを選んでくれました」。休日はもっぱら4歳になる娘との“デート”が楽しみという斉藤さん。その腕元にはいつも、結婚指輪のように2人を結ぶこの時計がある。
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